
今回紹介するのは今村昌弘の「明智恭介の奔走」。明智恭介は、今村昌弘のミステリーシリーズの第1作である「屍人荘の殺人」に登場した人物だ。シリーズの主人公、葉村譲が所属する神紅大学ミステリー愛好会の会長を務め、「神紅のホームズ」を自称し、警察にも協力して難事件を解決するという。しかし「屍人荘の殺人」では、事件を解決する人物かと思わせて序盤であっさり姿を消してしまい、読者に強烈な印象を残した存在でもある。
本作「明智恭介の奔走」では、そんな明智が大学内外で発生するさまざまな事件に再び立ち向かう様子が描かれる。事件の種類は幅広く、軽妙でコミカルなものから、ちょっとしたミステリーの趣を持つものまで多彩だ。具体的には、大学のサークル棟で起きた盗難騒ぎ、商店街での土地取引にまつわる謎、泥酔して引き起こされる肌着引き裂き事件、宗教学の試験問題の漏洩事件、そして手紙ばら撒きハイツ事件の5つが描かれている。
いずれも命に関わるような凶悪事件ではなく、日常に潜む小さな謎や不思議な出来事が中心で、どこかほのぼのとした雰囲気が漂う。しかし、明智の鋭い推理と論理的な分析によって、読者は次第に事件の全貌を知り、事件の裏に隠された人間模様や動機に触れることになる。
助手の葉村譲とともに、事件の現場に赴き、聞き込みや観察を通して着実に謎を解きほぐしていく。二人のやり取りはコミカルで、軽妙な掛け合いの中に緊張感やユーモアが絶妙に織り込まれている。このコンビがシリーズ作品で読めないことを残念に思わせる。(城)


