大好評の「あんぱん」が終わり、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の妻セツをモデルとしたNHK朝の連続ドラマが始まりました。今回は怪談で有名な小泉八雲にちなんで、筒井康隆選出の奇譚小説アンソロジーを紹介します。

 収録作は、遠藤周作の「蜘蛛」、生島治郎の「頭の中の昏い唄」、曾野綾子の「長い暗い冬」、笹沢左保の「老人の予言」、都筑道夫の「闇の儀式」、吉行淳之介の「追跡者」など13編。単行本が発行されたのは1969年(昭和44)で、いつ買ったのか記憶にないこの文庫本も久しぶりに手にとると、すっかり紙が黄ばんで「ええ感じ」にホラーっぽくなっていました。どれも不気味で怖い話ばかりですが、なんともいえず気持ちが悪いのが曾野綾子の「長い暗い冬」。

 主人公はスコットランドに単身赴任している商社マンの石山。日本に残してきた妻は部下と不倫の末に心中、いまは7歳の息子光之(みつゆき)と2人で暮らしている。何を考えているのか、表情に乏しい光之はいつも、家の中で日本から持ってきた絵本「カチカチ山」を黙って読んでいる。石山は言葉がわからず、夜が長すぎる異国で心を病みつつあることを自覚しており、ある日、精神科医の友人がスコットランドを訪れた際、一緒に食事をしながら悩みを打ち明ける。店を出たあと友人を自宅に招き、光之にも紹介するが、光之は返事もせず、黙って絵本を読んでいる。そのとき、友人が光之の背後からのぞき込んだ絵本は…。

 最後まで何か恐ろしい事件が起こるわけではありませんが、編者の筒井氏もネットのレビューもなぜか、とんでもなく怖い名作だと絶賛しています。私は読む力が足りなかったのか、どこがどう怖いのかまったく意味がわかりませんでしたが、あらためて読んでみてさらにその「?」が深まりました。

 フィンランドなど北欧の国は冬が長く、日照時間が短く、どんよりとした空が何カ月も続くため、学生が留学する際は精神衛生に気をつけましょうという話を聞きます。この作品はそんな異国で暮らす日本人の話ですが、ホラーとしての怖さよりも、主人公石山の鬱々とした内面、幼い息子の不気味さ、冷え切った親子関係の淡々とした描写はなかなかのイヤミス感。

 その他、小松左京の「くだんのはは」、戸川昌子の「緋の堕胎」も後味の悪さは一級。集英社文庫は絶版ですが、ネットで中古本は買えるようです。(静)