藤田真央? と聞いて私は女の子だと思った。ネットで調べてみると男の子。写真を見るとまるで小学生だ。彼は二十六歳。

 彼を知ったのは茂木健一郎(脳科学者)と文藝春秋編集者の対談である。

 アルゲリッチの代演で好評を博した彼に注目して本を書いてもらうことに。茂木が「本はすぐに出来ましたか?」と尋ねると「表紙の撮影が大変だった」。彼の演奏のイメージからピアノを森に運んで撮影することに。スケジュールの都合でフランスでの撮影となった。日本とフランスでは芸術に対する考え方がまるで違うという。

 そうして出来上がったのが本書の表紙である。

 ピアノにも色々ある。真央がフランスの或る田舎町を訪れたとき、五台のピアノが用意されていた。それはスタインウェイ二台、ベヒシュタイン二台、そしてファツリオが一台だ。真央は弾き較べてスタインウェイの一台を選んだ。しかし、そのスタインウェイにもニューヨーク製とハンブルク製があるという。ニューヨーク製は一つひとつの音が煌びやかに輝き、ハンブルク製は音同士が調和するという。
「音楽の前では決して嘘をつくことはできない」と真央は語る。さらに「モーツアルトは私に合っている。瞬間ごとの即興性やコロコロ音色が変化して行くところが。例えば『第24番』の協奏曲であってもどこかに華やかな遊びがある。その性向が私には合っている」、と。そして真央はこうも言う。「私の人生の節目には、モーツアルトが必ず現れる」。

 さあ、芸術の秋です。音楽会に出かけてみようではありませんか。(秀)