
現代社会の暗部に迫る力作長編をご紹介します。今年下半期の直木賞候補になりました。
物語 自動車期間工の本田昴は、Twitterの140字だけを社会とのつながりとしながら2年11カ月の寮生活を送り、その最終日に、「ブレイクショット」という名のSUⅤのボルトを一つ、同僚が車体の内部に落としてしまうのを目撃する。
一方、ヘッジファンドの大手、ラビリンスの副社長霧山冬至は、学生時代からの友人でもある社長「ヒデさん」こと宮苑秀直がインサイダー取引の疑いで逮捕されたあと社長に就き、事態の処理に奮戦。しかし会社の評判は地に落ち、タワーマンションの上階で暮らしていたその生活も一変する。サッカーのユースチームで才能を発揮し、将来を嘱望されていた息子の修吾を、無二の親友であるチームメイトの後藤晴斗はしっかり支える。
冬至が売った愛車のブレイクショットを、偶然にも晴斗の父親である板金工の後藤友彦が購入。板金一級に合格し課長に昇進した記念に奮発して買ったのだが、しかし不幸な事故が友彦を襲い、一家の運命は一変する。
一方、中央アフリカの紛争地帯で、少年兵の2人組は日本製のSUⅤ車を改造した戦闘車に乗り、「ゲスト」のアメリカ人一家を護衛する任務についていた。だが、戦闘の混乱の中でゲストとはぐれ、そのあとになぜか10歳ぐらいの少年が残されていた。2人は少年を守りながら「ゲスト」の手に渡すべく戦いながら進むが…。
マネーゲーム、SNS、サッカーチーム、紛争と、現代社会を象徴するような境遇にある複数の主人公達の物語が、それぞれに進行しながらいつしか繋がり合っていくダイナミズムは見事。
読み終わってみると、緻密な構成とドラマチックな展開の向こうから、過酷な時代の試練の数々をかいくぐってたどり着くべき一つの理想の境地を、明確に形にして掲げようとする著者の意志がびんびん伝わり、そのことに感動しました。
直木賞は「該当作なし」となりましたが、話の落としどころがきれいすぎて「もうひとひねりあるべきだった」と評されたのかもしれません。しかし、私には「そんなものはいらない」と思えます。正攻法ともいうべききれいな収束のし方も含め、そこに過酷な時代へのアンチテーゼともいうべき著者の強いメッセージを感じました。「大切なのは真摯に生き抜くこと」である、という。(里)


