食欲の秋である。

 江戸落語に登場する秋の味覚と云えば「目黒の秋刀魚」が有名。

 目黒へ鷹狩りに行った殿様が、庶民が焼いた秋刀魚を食べこの味が忘れられない。御殿に帰り秋刀魚を所望したところ、御殿では野良で焼いた秋刀魚ではなく家来たちが毒見に毒見を重ねた秋刀魚が出てきた。殿様は「秋刀魚は目黒に限るのう!」と言ったという落とし噺だ。

 これ以外にも「時そば」が有名で、時刻を間違えて代金を多く払ってしまう。

 本書ではこれら以外にも江戸落語に登場する様々な食事が紹介される。 「長屋の花見」では、裏長屋に暮らす江戸の民たちが花見に行くとどうなるかが語られる。卵焼きが沢庵だったり、蒲鉾だと思って食べたら大根だった。はたまたお酒は「お茶け」で酔った振りをするという、そんな涙ぐましい長屋の花見である。

 「王子の狐」は、今もJR王子駅前で卵焼き屋を営業している「扇屋」が出てくる。「扇屋」は当時は料亭であり、王子稲荷に参詣する人々をもてなす料亭であった。またそこの「卵焼き」はお土産として重宝された。

 ある男がお参りの途中、狐が若い女に化けるのを目撃する。狐を騙そうと「扇屋」へ誘い込み、巧みに酒を飲ませて狐を眠らせてしまう。狐が眠ったことをいいことに、扇屋の卵焼きを手土産にし、金は女が払うと云って帰ってしまうという落語だ。

 「扇屋の卵焼き」は今も通販で売られている。私も買ってみた。やはり江戸時代からの名品。非常に甘く美味しいこと限りない。狐に騙されたと思って買ってみてはいかがだろうか。(秀)