
約20年前に登場したSNSはいまや人々の生活の一部となり、テレビ、新聞、週刊誌等の既存メディアは情報発信の主役の座をSNSとネットに奪われつつあるといわれます。しかし、SNSや動画サイトは情報更新の速さと量、情報入手の手軽さが便利な半面、発信者が特定されない匿名性から個人の人権、プライバシーの侵害が大きな社会問題となっています。本作は、元神戸新聞記者で、実際の事件や出来事を題材とした社会派ミステリーに定評のある塩田武士の最新刊です。
あらすじ 不倫を報じられ、SNSで苛烈な誹謗中傷を受けた人気お笑い芸人は自ら死を選び、少し前に華やかな芸能界を駆け抜けた伝説の歌姫は写真週刊誌のデタラメな報道により姿を消した。彼らを追いつめた絶望とは何だったのか――。匿名でネット上にお笑い芸人への誹謗中傷を書き込んだ83人のプライバシーを晒して名誉棄損で訴えられた、2人とつながる人物の依頼を受けた若き女性弁護士が、お笑い芸人と歌姫の人生に迫る。
実際、このところの週刊誌報道、とくに人気のあるお笑い芸人や俳優をターゲットとしたスキャンダル報道は行き過ぎの感があります。正義と正論を盾にプライバシーを暴き、その報道とネット上の匿名の誹謗中傷が当事者だけでなく、友人、仕事仲間、家族まで傷つけ、当事者は最終的に芸能界から抹殺されてしまう。その結果、テレビはますますつまらなくなっています。
スキャンダルを暴かれ、絶えずあらゆる方向から飛んでくる陰湿な誹謗中傷に心を病んでしまった天才芸人。彼の才能を売れる前から見抜き、苦楽をともにしてきた被告の男性は被害者からの和解の提案を受け入れず、あえて法廷で自らの考えを主張します。
被告は裁判官から、ネットの情報被害対策として、どのような手段が理想的だと思うかと問われ、「地道に声を上げ続けるしかありません」と答える。体罰やハラスメント、飲食店や病院での喫煙、飲酒運転などが昭和と令和のいまでは隔世の感があるように、ネットの誹謗中傷も声を上げ続けることによって、世の中の倫理観が少しずつ向上していくと考えている。たしかに、私たち日本人はいまだ、このSNSという便利なツールを安全に使いこなせるまで成熟した社会ではないのでしょう。
ちなみに、この作品は書籍化される前、週刊文春で連載されていました。マジか?(静)


