筆者にとっては驚天動地といっていいほどの衝撃的なニュースがもたらされた。大阪松竹座が、来年5月の公演を最後に閉館するという◆物心ついた頃からずっといろんなジャンルの推し活をしているが、中でも四半世紀以上続く歌舞伎ウォッチングの楽しさと充実感には格別のものがある。その楽しさを支えてきてくれたのが「道頓堀の凱旋門」と呼ばれた劇場の存在だった◆歌舞伎の魅力とは一にも二にも、役者の魅力。それを知るにはなんといっても生の舞台でその演技に接すること。テレビ等で情報を得るより、劇場のぴんと張り詰めた空気を肌で感じ、舞台近くの席でその所作を、表情の細かな変化を目の当たりにし、朗々と響き渡るセリフ回しを耳で直に聴くことが、その役者の存在を近しいものにする◆腕の一振りで場内の空気を操る、先代の市川團十郎の芸格の大きさ。春風のように温かいものを含みながら涼やかな、片岡仁左衛門のたたずまい。そして三代目市川猿之助(二代目猿翁)の、重力から解放されたような自由闊達な存在感。歌舞伎ファンになってから、松竹座へ通い詰めてはそうしたものを大事に心に焼き付けて来た。家族の介護もあって近年は劇場へ行けていないが、それでも「あそこへ行きさえすれば」あの華やいだ空間に出会えることが心の支えになっていた◆折しもこの5日から御坊でも上映がスタートした、歌舞伎役者の生涯を濃密に描く映画「国宝」が空前の大ヒットを記録。歌舞伎という我が国第一級の芸術に、若い世代を含め多くの人の関心が集まっている。このタイミングで主要な劇場の一つが幕を閉じるのはなんとしても惜しい。誰か奇跡のような打開策を打ち出してくれないものか、祈る思いでいる。(里)


