和歌山県の高校・特別支援学校司書が選んだオススメ本「わかイチ本2024」に選ばれている、バレエ小説をご紹介します。著者は史上初めて直木賞・本屋大賞をダブル受賞した恩田陸。本書も2025年本屋大賞にノミネートされました

 内容 天才的男性バレエダンサーにして振付師、萬春(よろず・はる)。8歳でバレエに出会い、15歳で海を渡ってドイツの名門バレエ団に入団。やがて光り輝く無二の存在として、世界と出会っていく。

 「spring」という単語の4つの意味、「跳ねる」「芽吹く」「湧き出る」「春になる」をそれぞれタイトルに掲げた章を設け、寮の同室者でライバルとも同志ともつかない存在・深津ジュン、自称「ファン第1号」の叔父(母の弟)稔、幼なじみでのちに作曲家としてタッグを組む七瀬が、彼ら独自の視点から順に春を語り尽くす。多層的なカメラが一つの像を結ぶように、立体的に浮かび上がってくる天才の姿。彼は人々の意識の中で、重力とは無縁なように軽々とその身を躍らせ、見る者を別世界へ誘っていく…。

 私が実際にプロのバレエダンサーのステージを初めて観たのは2001年11月、和歌山県民文化会館。東京バレエ団の「春の祭典」、シルヴィ・ギエムの「ボレロ」を鑑賞しました。
間近に見た生の舞台では、飛び散る汗がライトにキラキラと光るのがとても美しく見えました。また、舞台に着地する時の音が「生身の人間が鍛え抜いた身体によって、この夢のように美しい世界を現出させている」という事実を実感させてくれ、それに感動したのを覚えています。

 本書は「国宝」と同じく、読むとバレエを観たくなります。特筆すべきは作中作品の実在感。次から次へとアイデアがきらめくようなバレエ作品が作中で生み出され、特に1人1人がそれぞれ楽器を演じて踊りながら音を重ねていく「ボレロ」は、ぜひ実際の舞台を観てみたいものだと強く思いました。圧巻は、ステージ上に小学校の机を25個並べた上で踊る「春の祭典」。

 舞台芸術に関心のある人なら瞠目するシーンやエピソードが目白押し。個々のセンスのぶつかり合いと融合によって、ワクワクするような新世界が生まれる。創作の現場の面白さが存分に味わえます。

 バレエという芸術の凄さ、そしてあらゆる芸術を言葉だけで再現し得る文学という表現手段の凄さをも、思い知らされる一冊でした。(里)