30年ほど前に美浜町を担当していた時、毎年夏に取材する恒例の行事があった。三尾の大賀池で開かれていた、観蓮会だ◆大きな蓮の葉に酒を注いで飲む「象鼻杯」が行われ、町内の短歌会や俳句会による観蓮歌会・句会があり、レンコンの炊き込みご飯をハスの葉で包んだ「ハス飯」が振る舞われた。池には鮮やかなピンクの大賀ハスが何輪も咲いていた◆2000年前のハスの実から咲いた神秘の花、大賀ハスがこの池に分根されたのは1963年。当時日高高校教諭で「ハス先生」と呼ばれた故阪本祐二さんが、発見者の大賀一郎博士の愛弟子であった縁による。阪本さんは66年に舞妃蓮を作出したことでも知られる◆60年以上の歴史を持つ池だが、近年は生育状態が悪く、観蓮会も開かれなくなったのを寂しく思っていた。昨年は漏水と強力な雑草の繁茂で、阪本さんのご長男で和歌山大賀ハス保存会会長の阪本尚生さんも「もう終わりかもしれない」とあきらめかけたという。それが3月から、御坊市の松樹園がボランティアで改修。ガルバリウム鋼板を張り巡らして漏水を防ぎ、土を全面的に入れ替え、「救世主」となって池を助けてくれた◆今月4日に阪本会長らが果托を採取したところ実に260本あり、蕾もたくさんあるので最終的に開花数は約400本になりそうとのこと。阪本会長は「これまで100本に至らなかった大賀池では画期的な数字。ここまで回復するとは、うれしい誤算です」と話していた◆一度力を失くしたものの復活を目の当たりにするのは、どんな分野でも心が浮き立つ。改修完成披露会の取材で見た、朝風に揺れる大賀ハスのみずみずしい薄紅色は、池の喜びを表すようだった。(里)