大ヒット上映中の映画「国宝」の原作をご紹介します。

 物語 任侠の一門に生まれ育った喜久雄は、15歳の時に抗争で父を亡くし、天涯孤独の身になってしまう。上方歌舞伎の名門の当主、花井半次郎が彼の天性の才能を見いだし、手元に引き取ることになる。思いがけず歌舞伎の世界へ飛び込んだ喜久雄は、半二郎の跡取り息子の俊介と兄弟のように育てられながら、親友として、ライバルとして、互いに高めあい、芸に青春を捧げていく。

 だがある日、半二郎が事故で入院。彼は自身の代役として、俊介ではなく喜久雄を指名する。その日から、2人の運命は大きく揺るがされていく…。

 朝日新聞で2017年1月から翌年5月まで、1年4カ月にわたって連載されていた時から一日も欠かさず読んでいました。映画版の方は残念ながら地元・御坊で上映されておらず、和歌山市へ観に行く時間がなかなかとれなくてまだ観ていないのですが、全国的には社会現象になるほどのヒットを記録しているようです。

  本書は「芸」に生ききる一人の男の生涯に迫り、国の宝にまで昇り詰めるその歩みをつぶさに描くことで「芸」とは何か、芸に生きるとはどういうことなのかを読む者に問いかけてくる一作なのですが、それ以前に、とにかくただただ面白い! 物語そのものが大きな一つの生き物であり、さらにそれを構成する一文一文が個々の生き物であるように息づいて脈打ち、読む者の心をとらえて離さない。各章の幕切れなどここぞというところで劇的に展開する、圧倒的にインパクトのある場面。ハッとさせられ、不覚にも目頭が熱くなり涙がこぼれ落ちる場面もありました。

 映画を御覧になった方にはぜひ原作を通読して、さらにその上でもう一度映画を見て頂きたいという思いがこみあげてきます。映画はまだ観ていない私にも、そうすることで双方の魅力がより深く堪能できる、一世一代、相乗効果の名作同士なのではと思えるのです。

 特筆すべきは「ございます」という独特の語り口。これがこんなにハマるのは本書と「蜘蛛の糸」ぐらいかと思うのですが、その視点は一体誰のものなのか。舞台を巡るすさまじいまでに劇的な人間模様を時代を超えて見つめ続けてきた、歌舞伎座そのものなのかもしれません。
(里)