7月のテーマは「涼」。涼しさを感じる描写をご紹介します。
 「ビルマの竪琴」(竹山道雄著、新潮文庫)
 戦争を描いた児童文学としてあまりにも有名な本書。著者はドイツ文学者で、香り高い名文で全編書かれています。
 兵士たちが、日本へ帰ったのちの生活を語り合う場面です。

  * * *

 いよいよ日本に帰るのです。どんなになっているか分からないが、自分の家にもどるのです。どんなことになるか分からないが、自分の生活をはじめるのです。

 ――さあ、故郷に帰ったら、あの桑畑の中の白壁の家の縁側で、ゆっくりと昼寝をしてやろう。涼しい川瀬の音がきこえてくるだろう。軒の上に巴旦杏がぽたぽたと落ちているだろう。蚕部屋では蚕がねむそうな音をたてて桑の葉をくって、やがて繭が一つずつ白くかかってくるだろう。それを世話するあのいそがしい楽しみが、またはじまるのだ…。(略)

 ――いや、自分は口笛をふいて自転車にのって、伝票をもって銀座の町を走る。そうして、かえりには映画を見て、みつまめを食ってやろう…。