5月のテーマは「緑」。80年代に人気を博した片岡義男の掌編集から、印象的な場面をご紹介します。
 「吹いていく風のバラッド」(片岡義男著、角川文庫)
 都会的な文体で人気を呼んでいた片岡義男。
 本書は、ごく短い文で描写されたさまざまな文を無作為に並べた実験的な一冊です。

   * * *

 広い公園だ。
 緑が美しい。
 手入れのいきとどいた芝生に、スプリンクラーが水をまいていた。
 空中にはねあげられた水は、早朝のきれいな陽光のなかで透明な銀や黄金にきらめきつつ、こまかな緑の葉のあいだに落下した。
 芝生の奥には、樹があった。
 ちょっとした林のような、深い植え込みだ。
 空が青い。南カリフォルニアの空だ。白い雲がひとつだけ、うかんでいた。
 陽ざしは、目まいがするほどに鮮明だった。風が吹いた。さわやかな風だ。甘い香りがする。
 今日も、初夏の熱い日になりそうだ。朝の空気が甘ければ甘いほど、その日は熱くなるのだ。