初夏、新緑から夏の緑へと、緑が濃さを増していく季節。5月のテーマは「緑」とします。

 「葉桜の季節」(髙樹のぶ子著、講談社文庫)

 「光抱く友よ」で芥川賞を受賞、その後も多くの著作で賞を受けた作家。御坊市にも市民教養講座講師として訪れたことがありました。本書は季節感あふれるエッセイ集。冒頭に表題のエッセイがあります。

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 さて花が散り、葉桜の季節になる。川の水面が光り、セリや葦が川の両岸や中洲に緑色の盛り上がりを見せる。(略)春から夏への移行。そして覚醒し勢いづく感覚。ひと雨ごとに桜の葉の色も濃くなる。(略)ある日、小学校一、二年生だった私に、母は楠木正成が息子と永訣(わか)れて湊川の合戦におもむいた話をしてくれた。「青葉茂れる桜井の…」母は自らの語りに酔い、ついに歌までサービスしてくれ、私は生まれて初めて涙を流しながらこれを聞いた。(略)葉桜の季節、現代の子供はどんな物語に初めての涙を流すのだろう。