4月は新年度の始まり。今月のテーマは「入学」とします。
 「次郎物語 二部」(下村湖人著、岩波文庫)

 近代日本の成長文学「次郎物語」。生まれてすぐ里子に出され、家に戻ってもなじめない次郎は愛に飢えながら成長。二部では中学校に入学し、生涯の恩師らと出会います。

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 左側の窓の上の壁には、一間おきぐらいに大きな油絵がかかっていた。それはすべて郷土出身の維新当時の偉人の肖像画だった。次郎は、見るともなくそれを見ているうちに、その下に新入生の父兄たちが顔をずらりと並べているのに気づいた。次郎は、すばやく、その中に父の顔を見つけた。父も彼をさがしていたらしく、視線がすぐぶっつかった。次郎は少し顔を赤らめて目をそらし、こんどは右のほうを見た。(略)

 校長は五分刈りで、顎骨の四角な、目玉の大きい、見るからに魁偉な感じのする、五十四五歳の人だった。(略)その大きな目玉からは人を射るような鋭い光が流れており、しかも、その中に、どこか人の心をひきつけるようなやさしさがただよっていた。