第七十回全国読書感想文課題図書である。これはあまりにも癖のある東新宿高校定時制の生徒たちを科学へと導く物語。

 岳人は金髪にピアスの二十一歳。いつも学校で煙草を吸っている。アンジェラは四十三歳。フィリッピン人とのハーフで歌舞伎町でパブをやっている。麻衣は十七歳だが年齢を偽り新宿のキャバクラで働いている。よく授業中にお客から電話が掛かってくる。佳純は不登校で保健室登校をしている。ときどき過呼吸になる。長嶺は七十六歳で町工場を経営している。妻は難病で入院。看護のためときどき学校を休む。マリはアンジェラの友達。リストカットの傷が両腕に無数にある。要(かなめ)は全日制の生徒だがコンピューターに詳しくゲームを自作している。

 そして教師の藤竹(三十四歳)は彼らの担任である。元大学の研究員だが、辞めてこの定時制で理科と数学を教えている。

 生徒たちはそれぞれ複雑な事情を抱えているが、藤竹はそんな彼らにある実験を持ちかけた。

 藤竹は大学で高性能の赤外線カメラの研究をしていた。天体表面の温度分布や大気の動きが分かるというもの。完成には同じ県内の高等専門学校の学生の卒業研究が役に立つことを知る。藤竹はこの学生に連絡をとり必要なデータを取り寄せた。その結果、高性能カメラは完成した。そのことを論文にして学生の名前も載せ学会発表しようとしたとき、藤竹の大学の教授から待ったが掛けられた。教授は言った。

 「大学院生ならともかく、高専の学生の名前など入れたら、論文の格が落ちるだろうが」

 藤竹は猛烈に抗議したが受け入れられなかった。教授との確執も生まれ大学も辞めざるを得なくなった。藤竹は科学はエリートだけのものではないと考えていたのだ。そしてそれを実験によって証明しようとしていた。それが日本地球惑星科学連合大会高校セッションへの出場だった。

 東新宿高校定時制の生徒たちは、実験室の中に「火星を作る」というもので大会に出場した。幸いにも彼らは優秀賞の一つに選ばれた。しかし、大会終了後、その賞よりももっと驚くようなことが待ち受けていたのである。

 帰り道、ある小男が小走りに近づいて来て名刺を差し出した。「私、JAXAの相澤といいます。みなさんは『はやぶさ』というのを知っていますか?」
 さて、彼ら定時制高校生たちに、いったい何が起こったというのだろうか?(秀)