名優ジーン・ハックマンさんが先月27日、自宅で死亡しているのが見つかった。享年95。妻と愛犬も亡くなっており、事件性も否定できないせいか、日本ではあまり報道されなかったが、映画ファンとしては寂しいニュースである。

 「フレンチ・コネクション」など代表作は数多く、個人的にはアラン・パーカー監督の「ミシシッピー・バーニング」を挙げたい。人種差別が根強い南部の田舎町で、殺人事件捜査に奮闘するFBI役が強烈に印象深い。

 劇中、差別主義の秘密結社と結託した白人の町長がハックマン演じる捜査官にいう。「ボスに伝えろ。みんな南部を誤解している。この町には白人と黒人の2つの文化がある。昔からそうだし、これからも変わらないってな」。

 この半世紀前の映画のセリフは、現在の移民問題にそのまま刺さる。米国や欧州各国で移民に厳格な政党が支持を集め、先のドイツの総選挙では中道右派のキリスト教民主・社会同盟が第1党、極右ともいわれるドイツのための選択肢が第2党と躍進した。
 これらのニュースで「右派」「極右」という言葉をよく耳にする。日本人には単に軍国主義のような響きもあるが、エネルギーの高騰、移民流入による地域の分断、格差拡大に苦しむ国民からすれば、多国間ルールに縛られず、自国のルールは自分たちで決めたいと願うのは当然であろう。

 人は言語や文化、宗教が同じであっても争いは起き、デモやテロ、さらに戦争にまで発展することもある。高福祉国家といわれるデンマークの統合政策をみても、国による言語や宗教の教育など風通しの悪い移民コロニーへの干渉は非常にデリケートで難しいが、それは決して差別ではない。(静)