江戸後期に彗星のごとく現れ、わずか10カ月で姿を消した謎の浮世絵師、東洲斎写楽に迫るミステリーをご紹介します。発表は42年前。NHK大河ドラマ「べらぼう」に合わせて「あらためて読んでみた」という人も多いようです。

 物語 武蔵野大学で教える西島俊作を中心とする「江戸美術研究会」、在野の研究家嵯峨厚を中心とする「浮世絵愛好会」。浮世絵研究の世界はその2派に分かれ、両者は反目し合っていた。

 そんな中、西島の若い助手津田は偶然とんでもないものを手に入れた。謎の浮世絵師・東洲斎写楽の正体に迫る重要な書き込みのある画集である。キーワードは平賀源内や田沼意次とも関係する「秋田蘭画」。津田は秋田へ、写楽の正体かも知れないある絵師の存在を探る旅に出る…。

 初めて読んだ時は浮世絵に関してほぼ知識のない状態。作中で展開される「写楽は何者か」の推理はそれなりに面白かったのですが、肝心のミステリー部分にそれほど心を動かされなかったこともあり内容はほぼ忘れていました。

 その後、歴史大河ギャグ漫画の大作「風雲児たち」(みなもと太郎)で「解体新書」執筆者の周辺を巡る章を感動と共に読み、今回、源内や田沼意次を念頭において読み返してみると、著者の意図する、浮世絵の世界と田沼vs松平定信という政治情勢との関わりが、説得力を持って迫ってきました。ネタバレできませんが、面白い着眼点だと思います。

 谷津矢車「蔦屋」では、写楽については伝聞という形で処理され、写楽本人が出てきて喋る場面はありませんでした。ドラマでは謎の絵師がどう描かれるか、今から楽しみです。(里)