
乙巳(きのと・み)の始まり、1月のテーマは巳年にちなんで「蛇」とします。
「夢十夜」(夏目漱石著、岩波文庫)
文豪が「夢」をテーマに書いた、奇妙な味わいの短編集。第四夜には、イメージとしての蛇が登場。ここでは、蛇は不思議なもの、非日常的なものへの期待の象徴とされているようです。
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やがて爺さんは笛をぴたりとやめた。そうして、肩に掛けた箱の口を開けて、手拭の首をちょいとつまんで、ぽっと放り込んだ。「こうしておくと、箱の中で蛇になる。今に見せてやる。今に見せてやる」と云いながら、爺さんが真直に歩き出した。(略)自分は蛇が見たいから、細い道をどこまでもついて行った。爺さんは時々「今になる」と云ったり、「蛇になる」と云ったりして歩いて行く。しまいには、「今になる、蛇になる、きっとなる、笛が鳴る」と唄いながら、とうとう河の岸へ出た。(略)爺さんは「深くなる、夜になる、真直になる」と唄いながら、どこまでも真直に歩いて行った。