大河ドラマ好きの筆者にとって1年の始まりは、新たな作品のスタートでもある。第64作目の「べらぼう 蔦重栄華乃夢噺」が5日にスタートした◆主人公とは別に、いま世間ではいい評価と悪い評価のどちらが多いか気になっている主要人物がいる。渡辺謙が演じて初回でも印象的な姿を見せた、老中田沼意次だ。かつては賄賂政治家とされていた。子供の時に習った歴史教科書にも「まいない(賄賂)鳥」の言葉を添えて鳥に似せた当時の戯画などがあったが、近年著しく評価が上がっている◆40年近くも前だが司馬遼太郎作品を読み始めた学生時代、かつて高校で日本史を教えていた父に好きな歴史上の人物をきくと「好きというのではないが興味深い人物」として田沼意次の名を挙げた。賄賂政治家のイメージしかなかったので理由をきくと、「世のためになる経済政策などに取り組んでいた点をきちんと評価すべき」との答。その後長い時を経て池波正太郎「剣客商売」、辻原登「花はさくら木」など田沼を好意的に書いた小説を次々読み、世間的な評価の変転を実感して感じ入った。みなもと太郎「風雲児たち」では彼が信念をもって取り組んだ蝦夷地調査などの大事業もつぶさに語られ、悪評がいかにつくられたかの解説もあって目を開かされる思いがした。今は教科書の記述なども変わっているという◆一面的なイメージに納得するのでなく、残された史料を正当に検証し、考察を加えることで歴史の実像が見えてくる。過去を学ぶことは現代を進む指針を得ること。ドラマはあくまでも楽しみに見るものだが、深く学ぶことの種もその中に埋もれている。深い学びはまた、意義を持って生きるための深い楽しみでもある。(里)