「ゲゲゲの鬼太郎」で知られる妖怪漫画の第一人者、水木しげるが人生の指針にしたというドイツの文豪ゲーテの言葉の数々を収めた企画本。2015年に93歳で亡くなる直前、水木プロダクションの編集により出版されました。

 内容 第二次世界大戦中はラバウルに出征し、左腕を失った著者。出征前は死に直面する思いで哲学書等を多数読み、戦地にも「ゲーテとの対話」エッカーマン著全3冊を持参。読む暇はなかったが、折に触れ言葉を心の中で暗誦していたという。

 本書では、出版時の著者の年齢93歳にちなみ、ゲーテの数多い名言から93個を選んで掲載。それぞれの言葉に関連する著者の言葉付き。著者がゲーテに出会った時のことが書かれた自伝「ねぼけ人生」からの抜粋、著者のインタビュー等も収録。

 父が怪談好きで、当然のごとく「ゲゲゲの鬼太郎」も幼少時から何冊か身近にありました。「水木しげる」は一番早く名前を覚えた漫画家の一人かもしれません。高校生の時に自伝「ねぼけ人生」と自伝漫画「のんのんばあとオレ」を読み、面白かったと同時に感動的しました。最近、「水木サンの人生は80%がゲーテです」という帯のついたこの本がテレビ番組で紹介され、「それは知らなかった」と驚いて読んでみたのでした。

 私自身のゲーテに関する知識は乏しく、シューベルトが作曲した詩「野ばら」の作者であること、「若きウェルテルの悩み」「ファウスト」の著者であることぐらい。本書を読むのと並行してゲーテの生涯を調べ、文学者であると同時にワイマール公国の宰相でもあったことを初めて知りました。

 水木さんがゲーテに心酔していたのは、人間の「大きさ」であるようです。大きな視野を持つがゆえに、日常の些事にことよせて真理を言い破ることができる。

 本書収録の名言では、創作で大事なこととして「対象より重要なものがあるかね。対象をぬきにしてテクニックをどんなに論じてみてもしようがない!」、「マンネリズムは(中略)いつでも仕上げることばかり考えて、仕事そのものに喜びがすこしもないのだ」等ドキッとする言葉もみられます。

 ゲーテの等身大の人物像がもっと体温を伴って伝わるつくりであってほしかったという気がしますが、これを機に「ウィルヘルム・マイスターの修行時代」と「遍歴時代」でも読んでみたい気持ちになっています。   (里)