今月13日に92歳で他界した詩人、谷川俊太郎さんの仕事の中で、日本で最も知られた一作をご紹介します。

 あらすじ 小さな赤い魚の群れの中に、1ぴきだけ真っ黒な魚がいた。名前はスイミー。泳ぐのが誰より速い。ある時、恐ろしいマグロにきょうだいをみんな食べられてしまった。とても怖くて淋しくて悲しかったけれど、広い海のいろんな珍しいものを見て元気が出てきた。岩陰にきょうだいそっくりな小さな赤い魚の群れを見つけ「おいでよ、遊ぼう」と声をかけたけど、「だめだよ、マグロに食べられるよ」。考えに考え抜いたスイミーが見つけた、素晴らしい方法とは…。

 翻訳の谷川さんの訃報を受け、図書館で絵本を借りてあらためて読んでみると、本当によくできた物語だとつくづく感心しました。不慮の事態で家族を失うという大きな悲しみを味わい、その後、世界を旅して見聞を広める。新しい仲間と出会い、仲間たちのために持てる力を発揮し、皆の団結によって困難に打ち勝つ。大河小説がギュッと凝縮されているようです。特に素晴らしいのは「ぼくが、め(目)になろう」という一言。目立つと敵の標的になってしまうかもしれないけれども、おそらくそれを承知でスイミーは、みんなでつくる大きな魚の「目」の役を引き受ける。才覚を持った一人のリーダーが統率する集団は強い。

 分かりやすくてリズムのある、谷川さんの訳も素晴らしい。谷川さんは「レオニのちいさな主人公たちの前には、いつも広大で多彩なこの地球上の世界がひらけています」と述べています。詩人の感性で訳された絵本は、大人をも楽しませてくれます。 (里)