11月のテーマは「政治」。沢木耕太郎はデビュー作の1編で、河野太郎氏の父、河野洋平氏の若き日に迫っています。

 「若き実力者たち 現代を疾走する12人」(沢木耕太郎著、文春文庫)

 20代の河野洋平氏が20代の著者に、その父親・故河野一郎氏の重大な局面に立ち会った少年時の思い出を語ります。政治家の背負うものの重さに思いを致す一文です。

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 父が、七人の仲間と反吉田の〝筋〟を通して残ることに決めたその最後の夜は、いまでもよく覚えている。築地の料亭で、父がどうしても帰らないと主張する山村達を説得している間中、洋平は車の中でじっと待っていた。夜が更けて、険しい顔をした父親が出てきた。どうでしたかと尋ねるとポツンと一言、《あいつらだけを残す訳にはいかん》

 あとは家に帰るまで黙りこくったまま。車の前の座席に坐った洋平は、うしろでじっと黙りこくっている父の胸中が、しかしよくわかった。後頭部に全神経が集中し、そこで父・一郎の闘っているものの重さがジーンとしびれるように強く感じられた。