わが家の食卓には魚料理が多かった。理由は父親が魚好きだったためだ。しかし、幼い筆者にとっては煮魚や焼き魚の骨を取り除くのが大変だった記憶がある。魚自体は好きだったが、その作業が面倒で、しばしば喉に骨が引っ掛かった。そのときは家族から「ご飯を噛まずに飲み込んだら取れるよ」と言われたが、すぐに取れない場合も。そうなると、喉の骨が気になってしまい、他の料理もおいしくなくなってしまう。
先日、インターネットのニュースで「骨のない魚を開発」という記事が掲載されていた。読んでみると、魚に骨がなくなったのではなく、骨をできるだけ柔らかくした魚のことだった。記事によると、滋賀大学の杉浦省三教授が骨を硬くするリン酸カルシウムのリンをできるだけ取り除いて少なくしたエサを魚に与えることで、骨密度が通常の70%前後に落ちた。この飼育方法で育てたニジマスを食べると、シシャモのように骨を気にせず丸ごと食べられたという。
日本は世界有数の魚消費大国だが、年々消費量は減少している。子どもの頃の食べ物が大人になっても影響するため、「骨を取るのが面倒」「喉に詰まりそうで怖い」などという記憶が魚離れにつながっているという。記事では今回の「骨のない魚」が商品化されることで魚離れを食い止める対策となるという趣旨の内容も掲載されていた。
だが、デメリットもある。日本人は欧米にない箸を使って食べる食習慣。特に箸は魚の骨と身を取り分けるのに便利なアイテムで、ナイフやフォークではできない機能を持っている。骨を気にせずに食べられる魚の普及は日本人の文化を損ねてしまう可能性もあるのではないか。魚離れと食文化、どちらを選ぶかだ。(雄)