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10月のテーマは「スポーツ」。今週は、テニスの最も有名な世界大会を舞台としたサスペンスの名作をご紹介します。
「ウィンブルドン」(ラッセル・ブラッドン著、池央耿訳、新潮文庫)
テニスのソ連選手ツァラプキン、オーストラリア選手キング。2人は運命的に出会い、無二の親友にして最高のライバルとなる。この2人が対戦するウィンブルドンの決勝はテロの舞台となった。
試合の描写、緊迫感あふれる心理描写、どちらも素晴らしい。2人の最初の試合の場面を紹介。
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三つのボールを左手に持ってキングに向きなおると、彼はその瞬間をじっくり味わおうとするかのようにぴたりと静止した。と、無駄のない流れるようなスイングで、彼はキングのフォアハンドに低く深くボールを打ち込んだ。
略)
ツァラプキンは今一度彼ににっこり笑いかけた。それは、芸術家同士の連帯を意識した笑いであった。そしてその瞬間、キングは彼とこのロシア人青年が今テニスの奇蹟を演じようとしているのであることを悟った。