2006年のNHK紅白歌合戦で、テノール歌手の秋川雅史さんが「千の風になって」をうたったのを見た。亡き人の魂が大自然と一緒になって遍在しているという歌詞、それを聴く人の心にまっすぐ届けるパワーにあふれた歌声が印象的だった◆先日御坊市で開かれた市民教養講座で講師を務めた秋川さんは、当時のいきさつを語ってくれた。その年の紅白プロデューサーは「話題となった歌だけでなく、紅白を通じて世の中に広がる歌があってもいいのではないか」と、一部で話題となり何人かの歌手が歌っていた新井満訳詞「千の風になって」を「秋川さんの歌声で世に出したい」と決めたという。この歌は紅白から全国に知られ、翌年にはオリコン年間1位を獲得した◆「プロの歌手になる」という目標を掲げたのが高校時代。2年連続でコンクールの県予選に落選してショックを受けながらも音大進学、イタリア留学と着実に歌手への道を歩み、28歳で帰国して全国規模のコンクールに出場、東京在住だったがあえて郷里の愛媛県で予選を受け、見事全国優勝し雪辱を果たした◆「プロ歌手」「紅白」「オペラ」と、夢はすべて声に出して実現してきた。「夢って何歳でも持てる素晴らしいもの。そこへ向けての挑戦が楽しい」と話し、いまの夢は、80代の今もうたい続けるテノール歌手の父のように「生涯現役」、そして「究極の歌声をつくり出すこと」◆映画「慕情」のテーマ、「千の風になって」、そして「皆さんの夢への応援歌」として最後に「翼をください」をうたった。生で聴いた歌声は18年前にテレビで見た時よりも、挑戦への努力に裏打ちされたパワーが直に伝わってくるように力強く感じられた。(里)