映画「フィールド・オブ・ドリームス」で孤独な作家を演じた黒人俳優ジェームズ・アール・ジョーンズさんが今月9日、93歳で亡くなった。「スター・ウォーズ」のダース・ベイダーの声でも知られるが、野球を心から愛する米国人の表情が印象的だった。
フィールド・オブ・ドリームスは、ケビン・コスナー扮する農家の中年男レイがある日、トウモロコシ畑で「If you build it, he will come(それを作れば、彼は来る)」という天の声を聞き、周りにバカにされながら畑をつぶして球場を造る。
レイはそれまで冒険もせず堅実に生きてきたが、十代で親と喧嘩をして家を飛び出し、死んだ父に妻と孫娘の顔を見せられなかったことを悔やんでいた。天の声はそんな自分の心の声のように、レイを奇跡の旅に導いていく。
その名画が公開された35年前にはまだ生まれてもいなかった大谷翔平が、前人未踏の「50本塁打、50盗塁」を成し遂げようとしている。野球を愛するがゆえに、結果の出ない選手に厳しい米国のファンも、敵味方なくその瞬間を信じて待ち焦がれている。
偉業達成に向け、着々とキャリアを積み上げる大谷選手。地元メディアの記者も「50本、50盗塁どころか、53本、57盗塁はいくよ」「俺は歴史の目撃者となって、おじいちゃんはその瞬間をこの目で見たんだと、孫に自慢してやるよ」と大興奮。
米国人以外の選手が大記録に近づいた際、かつてはそうではなかったが、大谷には相手投手も避けることなく、真っ向勝負を挑んでいるのが気持ちいい。寄席好きの漱石が「三四郎」に書いた柳家小さんへのリスペクトと同様、「同じ時代に生きる幸せ」を感じずにいられない。(静)