語呂合わせの記念日は年間を通じてたくさんあるが、9月6日はシンプルに「黒の日」だそうだ。平成元年(1989)に京都の墨染工業協同組合が設立40周年を記念して制定したという◆負けたことを「黒星」といったり、有罪の人物を「クロ」と表現したり、ブラック企業やブラックマーケット、「黒歴史」など、ちょっと考えると「黒」のつく言葉にはあまりいいイメージのものがないようだ。しかし色として捉えると、究極に光を抑えた色彩であり、シックな大人好みの色でもある。きりりと引き締まった印象を与えることもできる。黒を基調としたインテリアは落ち着いた雰囲気でスタイリッシュなイメージ。「黒の日」の主眼は伝統染色の墨染のPR、黒紋服や黒留袖の普及を図ることだが、黒留袖は最高級に格の高い礼装である◆黒は無彩色だが、その内部にはすべての色を含んでいる。あらゆる光線を外へ出さず、吸収した状態が黒という色。白は逆にすべての色を反射させて目に届けている状態だ。どちらも目には映らないのに、実は内部に無数の色を持つ。「墨に五彩あり」という古来の言葉があるが、一見すると何もなくても、捉え方を変え、内部を見透かしてみると実は豊かな内容を持っている。時としてそんなことがある◆日本が世界に誇る文化である漫画は、基本的に黒と白の芸術である。雑誌ではカラーページもあるが、それよりも黒と白だけの本編の方が不思議に豊かな色彩を感じさせてくれる。吉田秋生の「最後の夏」など、黒ベタで表現された青空の深さは印象に残っている。黒とは、「あらゆる可能性の色」といえるかもしれない◆ちなみに4月6日は「白の日」かと思い調べてみたが、そうではなく「城の日」であった。(里)