40年以上も前、中学生になったばかりのころの話。詰襟の学生服を着て自転車で通うようになり、算数は数学に変わり、英語や美術、技術といった新しい教科も増え、いろんな面で変化や成長を感じた。
いまはもう取り壊された「新校舎」の美術室に、ポップな色あいのジャケットデザインが飾られていた。よくある白い石膏像はあったかどうか、とにかくその清涼感あふれるプールサイドのイラストが印象的だった。
そのジャケットは、数年前に発表された大滝詠一の不朽の名盤「ロングバケーション」。1学年か2学年上の先輩がLPを見ながら描いた、いま思えばどうってことのない絵なのかもしれないが、いまもテレビやラジオで「君は天然色」が流れるたび、絵の具のにおいとあの壁にぶら下がったジャケットを思い出す。
そんな記憶を呼び覚ます暑い季節に聴きたくなる歌は「夏うた」と呼ばれる。その帝王ともいうべきサザンオールスターズは名曲が多すぎて選ぶのに苦労するが、どのジャンルのアーティストにも1曲や2曲は、ファンが熱烈に支持する夏うたがある。
照りつける太陽と砂浜、浴衣とかき氷の花火大会、秋を感じる夏の終わりなど、いろんなシーンをうたった曲があるなか、にぎやかな祭りや熱い興奮のあとに静寂が訪れる夏の終わりは、四季を生きる日本人の多くが心地よさを感じ、ある種共通の性感帯のような気がする。
とはいえ、いまはまだ8月の上旬。夏の終わりには遠い。暑さのうえの忙しさは人をイライラさせ、つまらないことで周囲と波風を立ててしまいがち。風呂上がりの冷たいビールとともに、お気に入りの夏うたで癒やしの旅に出かけてみませんか。(静)