いよいよ26日、パリオリンピックが開幕します。今月のテーマは「パリ」です。

 「深夜特急6」(沢木耕太郎著、新潮文庫)

 ノンフィクション作家沢木耕太郎の出世作「深夜特急」。最終巻の最後近く、パリでの日々が描かれます。

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 パリは暮らしやすかった。これまでの街とは違って、確かに暗く、寒かったが、寂しくなかった。パリが本当の都会だったせいかもしれない。(略)公園があり、本屋があり、映画館があり、そして何より、美しい街並みがある。歩くのに飽きることがなかった。(略)

 瞬く間に処理された牡蠣は、小さな氷を敷いた木桶の中に並べられる。そこに半分に切ったレモンを入れ、渡してくれる。私はなんだかホテルでひとりで食べるよりここで呑みながら食べたくなってしまった。オジサンにワインのボトルを見せ、二人で呑まないかという身振りをした。断られるかと思ったが、オジサンは奥から栓抜きとグラスを二つ持って出てきた。私たちはそこで二人きりの宴会をやった。(略)それはパリの最後としては悪くない一夜だった。