沖縄県糸満市の平和祈念公園に、沖縄戦などで亡くなられた人の名を刻んだ記念碑がある。戦地に斃れた兵士、民間人を問わずすべての死者の冥福を祈り、終戦から50年目の1995年に建立された。また、同じ糸満市の別の場所には、沖縄戦で亡くなった和歌山県出身兵士の慰霊塔もある。

 これらの碑は日高地方各地のお寺や神社、学校にも見ることができる。戦争終結から79年が過ぎ、国民の9割近くが戦後生まれとなったいま、人目に触れながらもその存在は半ば忘れ去られた状態にある。

 英霊や戦災者に対する慰霊、追悼を目的とした碑のほか、大規模な工事の現場や自然災害で亡くなった人らの慰霊碑、大事業に携わった人たちの功績をたたえ、感謝を示す顕彰碑もある。

 171人の犠牲者を出し、7年もの歳月をかけて建設された関西電力の黒部ダムもその一つ。ひっ迫する大阪の電力、敗戦から立ち上がる日本の経済成長を止めないため、作業員を極限の現場に立ち向かわせたのは、兵士と同じく国を救う気概だった。

 先のトランプ前大統領暗殺未遂事件の発生直後、その場にいた報道カメラマンが撮影した写真が「奇跡の一枚」と話題となった。79年前の硫黄島の戦いで、兵士が摺鉢山の頂上に星条旗を立てる写真も人の心を搏つが、それを基に建てられた海兵隊戦争記念碑と黒部ダムの碑が重なる。

 来年の終戦80年に合わせ、県遺族連合会は地域の慰霊碑をまとめた冊子を発行する。戦争の記憶を次世代へ伝え、悲劇を繰り返さないことを目的としている。子どもたちがおじいちゃん、おばあちゃんの時代を調べ、平和を考えるうえでも、最適な夏休みの学習対象となる。(静)