
今月26日から、いよいよパリオリンピックが開幕。今月のテーマは「パリ」とします。
「移動祝祭日」(ヘミングウェイ著、高見浩訳、新潮文庫)
「老人と海」「誰がために鐘は鳴る」等で知られるヘミングウェイは1920年代の若き日、6年間をパリで過ごしました。青春の一時期をつづったエッセイ集です。
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もし幸運にも、若者の頃、パリで暮らすことができたなら、その後の人生をどこですごそうとも、パリはついてくる。パリは移動祝祭日だからだ。(冒頭、ある友への手紙の引用文)
釣り人たちと川の上の暮らし。船上生活者たちをのせた美しい艀(はしけ)。煙突を折りたたんで橋の下をくぐり、何艘もの艀を引っ張ってゆく曳き船。川の石堤に生えている楡(にれ)の大木。プラタナスや、場所によってはポプラの木。そういう光景を河岸で眺めていると、まず孤独を覚えることはなかった。街中にも樹木が随所にあるので、日毎に春が接近しているのを感じているうちに、ある晩一陣の温かい風が吹き、翌朝には突然春になっていたりする。(「セーヌの人々」)