2019年に発表された時はまだまだ随分先の話だと思っていたのに、気が付くと目前に迫っている。紙幣の新しい「顔」の登場である◆1966年生まれの筆者の子ども時代は、お札の顔といえば聖徳太子、伊藤博文、岩倉具視。1984年、高校生の時に紙幣の「顔」が変わるのを初めて体験した。クラスメイトと当時の新千円札に折り目を入れ、夏目漱石を笑顔にして遊んだことなど思い出す◆新紙幣の発行は7月3日となっている。一万円札は現行の福沢諭吉から「日本経済の父」渋沢栄一へ。五千円札は樋口一葉から「女子教育のパイオニア」津田梅子へ。千円札は野口英世から「近代日本医学の父」北里柴三郎へ。日本の紙幣に肖像が使われる人物は、これで合計21人になるそうだ◆福沢諭吉に替わって新一万円札の顔となる渋沢栄一については、2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」を視聴、子息の渋沢秀雄氏の著書「父 渋沢栄一」を読んだ。500もの企業の創設に携わった人物だが、それだけでなくさまざまな側面がある。「父 渋沢栄一」には、高齢になっても若い息子たちと徹夜でポーカーに興じ、一睡もしないまま疲れきった息子らを尻目に颯爽と要人との面会に出かける姿などが生き生き描かれる。大河ドラマでは、主君の徳川慶喜との生涯にわたり結ばれた絆、戦争を憎む心の強さなど、懐の深い人物像が1年かけて伝えられた。何よりも、経済と道徳の融合を掲げるユニークな視点を持ち、著書「論語と算盤(そろばん)」でそれを広く訴えた◆大きな業績を残した人物には学ぶところも大きい。日常の中で新たに触れる、偉人の肖像。これを機縁として、今まで知らなかった先人の偉業に触れるのもいい勉強である。(里)