印南町津井で花やスイカ、梅を栽培している山﨑農園の山﨑亮太さん(42)は昨年1月、初めて外国人技能実習生を受け入れた。現在はベトナムから来た女性3人が寮で共同生活し、亮太さんらから農業を学びながら仕事をしている。
実習生は、ホアさん(24)、アインさん(31)、フェンさん(34)。ホアさんとアインさんは昨年1月に来日し、フェンさんは9カ月遅れて10月に日本へ来た。全員、実家は農業で、「なぜ日本で農業を学ぼうと思ったのか」と聞くと、異口同音に「お金を稼ぐため」との答えが返ってきた。実習制度の目的に従い、日本の農業の技術と知識を身につけ、母国の農業振興に貢献したいという思いもあるが、現実は人手不足を補う労働力。他の職種と同様、実習生と受け入れ側の本音が合致している。
最も日本語が上手なのは一番若いホアさんで、取材で初めて会った記者にも、人懐っこい笑顔で積極的に話しかけてくれる。そんな性格もあり、日本語はこの1年半でみるみる上達した。昨年夏には自分でツアーに申し込み、休みを利用して1人で富士山に登ってきた。他の農家の人も「これまで何人も実習生を見てきたけど、こんなに早く上手に日本語を話せる子は見たことない」と驚くほどで、まだ思うように日本語を話せないアインさんとフェンさんの通訳もこなす。
山﨑さんは実習生を受け入れるにあたり、自宅の一部を寮に改装し、プライバシーが守られた4人分の部屋を作った。現在はホアさんら3人が暮らし、共同のキッチンで料理を作り、そろって食事をしている。買い物は山﨑さんの奥さんの車に便乗させてもらうことが多く、少し離れた町内のスーパーやコンビニには自転車で出かける。ホアさんは「すごく快適。なんの不満もありません。ホームシックになったこともないです」と笑い、山﨑さんも「日本人の人材確保が難しいなか、とても助かってます。できればこのまま、ずっとうちで働いてほしい」と考えている。
政府は現行の技能実習制度を廃止し、外国人材の確保・育成を目的とした「育成就労」制度を新設する。14日には入管法等の改正案が可決・成立し、2027年度から施行される見通しとなったが、人と人協同組合の扇田さんは、現状でも止めることができない人材流出の加速を強く危惧する。「外国人がより柔軟に長期就労できる環境づくりは、間違いなくいいことだと思います。しかし、買い物や交通が不便で、最低賃金も低い和歌山県の農業は、スタートの時点で都会の他の業種に大きく遅れをとっています。すでにこの日高地方からも人材が都会の異業種へ流出していますし、このまま新たな制度に移行すると、農家にとっても監理組合にとっても大切な、ホアさんのような人材を失うことになります」と訴える。
政府は新たな育成就労を移民政策とは公式に位置づけていないが、期間終了後に移行できる在留資格「特定技能」の対象分野と受け入れ人数を拡大するなど、経済再生を目指した成長戦略であるのは間違いない。日本と同じく急速な人口減少が進む韓国も、外国人労働者の確保に本腰を入れ始めた。どちらも東南アジア諸国からの受け入れを想定しているが、賃金は韓国の方が高く、渡航先として日本より人気があるとの報道もある。
和歌山の農業を守り、国家の存続を支える外国人材を、どうすれば日高地方につなぎ止めることができるか。扇田さんは「外国人実習生はある意味、高齢者と同じです。外出・移動が困難で、会話も大きな声でゆっくり話してあげることが大切。日本の生活や風習に慣れ、日本語が上達するためには、地元の人と交流できるイベントや日本語指導のボランティアが不足しています。県、市町には高齢者の外出支援のような移動のためのバスやタクシーの運行、または運賃補助、ATMや医療機関での多言語案内の充実などきめ細かなサポートをお願いしたいです」と話している。