総務省統計局が公表した2023年10月1日現在の日本の総人口は1億2435万2000人で、前年より約60万人減り、13年連続の減少となった。一方、厚生労働省がまとめた外国人労働者数は昨年10月末時点で204万8675人、前年より約22万人増加。国籍別ではベトナムが52万人で全体の4分の1を占め、次いで中国(約40万人)、フィリピン(約23万人)。人口減を食い止めるまでには至っていないが、外国からの移住は年々増加している。 

 日本は1993年、開発途上国の人材育成など国際貢献を目的として、外国人が最長5年間、働きながら技能を学ぶ技能実習制度を導入した。農業、製造業、介護などの分野で受け入れが進んできたが、言葉の問題等から虐待やハラスメントが多発。低賃金、家族と一緒に暮らせない、転職できないといった問題もあり、近年は急増している実習生の失踪がクローズアップされ、国際社会から批判の声が上がっている。

 御坊市で実習生を受け入れ、その活動や受け入れ先への支援を行っている監理団体、人と人協同組合は、約10年前から花や野菜の農業を中心に実習生を受け入れている。以前は中国人が最も多かったが、近年は経済発展した中国から来る人は減り、まだ日本より賃金が低いベトナムからの来日が増加。現在は技能実習37人、特定技能17人の計54人を受け入れており、国籍別ではベトナムが34人、中国が18人、台湾とインドネシアが1人ずつとなっている。

 実習生は「就労」ではなく「技能実習」という在留資格で学び、働いた分の賃金を得ている。しかし、現実にはどの分野も実習生は貴重な現場の働き手であり、和歌山の主力産業の農業も、いまは技能実習生が欠くことのできない労働力となっている。受け入れ農家は優秀な実習生が少しでも長く、技能実習から就労目的の特定技能へ移行して働いてもらいたいというのが本音。実習生が暮らす寮の設備を充実させ、買い物の送迎、ときには心配ごとの相談にも対応し、物心両面で可能な限りサポートしている。

 実習生も生活環境や仕事に関して不満はないが、娯楽がほとんどなく交通の便も悪い地方においては、滞在期間が長くなるにつれ、都会の方が楽しく、収入もいいという考えが頭をよぎる。近年はそんな田舎の実習生の心のすき間を突き、高収入を得られるなどと甘い言葉で誘い出し、偽造した就労カードなどと引き換えに高額の手数料を払わせ、闇バイトなど不法就労をさせる同胞の悪徳ブローカーが横行している。

 以前、人と人協同組合が担当していたベトナム人の若い男性は、SNSで見た「月の手取りが30万円、40万円になる」という情報を信じ、ある日、1人で黙っていなくなった。夜中になって戻ってきたが、どこで何をしていたか事情を聞くと、御坊駅まで迎えにきたベトナム人の男が運転する車に乗り、九州まで連れていかれたという。不審に思った男性はすきをみて逃げ出し、危うくだまされずに済んだが、失踪やトラブルが増えている背景には、都会との賃金格差、母国への送金が目減りする円安の影響も大きいといわれている。

 こうした状況が続くなか、受け入れ農家が本当の家族のような距離感で接する田舎では、都会のような人間関係のトラブルで失踪するケースはないが、3年間の実習終了後に実習生が帰国したり、特定技能へ移行後に他の職種を希望し、都市部へ流れてしまうこともある。3年間で日本語が上達し、地域の事情にも明るくなった実習生は、受け入れ農家にも後輩の新人実習生にとっても心強い存在となるが、人と人協同組合代表の扇田平平さん(53)は「現実はうまくいかない」と頭を抱える。先月23日、3年間の技能実習を終え、特定技能1に移行して1年目のベトナム人女性から扇田さんに、「来年は別の分野の仕事に変わりたいです。ごめんなさい」というLINEが届いた。

 技能実習生は就労ではなく、人材育成という建前上、原則、3年間は転職できないが、そのためにトラブルや失踪が続発し、他国からの批判も多い。政府はこれを廃止し、転職要件を緩和する新たな「育成就労」を新設する方針を決めた。その関連法の改正案が14日の参院本会議で可決、成立した。実習生にとってはうれしい半面、地方の農家や監理団体はさらに逆風が予想される。