「米国の経済が成長しているのはなぜか。それはわれわれが移民を歓迎しているからだ」。米国のバイデン大統領は先月1日、ワシントンで開かれた選挙資金集めのイベントで胸を張った。続けてロシア、中国を名指しし、それぞれの経済停滞の理由として「彼らは排外主義的で移民を望んでいないからだ」と述べ、さらにその輪の中にインド、同盟国である日本も加えたことが問題視された。
日本政府は外交ルートで「必ずしも正確な理解に基づかない発言であり、残念だ」と米側に抗議したが、11月の大統領選を控え、バイデン氏の移民(規制)政策を手ぬるいと批判するトランプ前大統領に対する反論であるのは明らか。元は西欧を中心とする移民によってできた合衆国、その彼らが経済成長に貢献しているというのは当たり前の話だが、敵対する中国、ロシアだけでなく、アジア・太平洋政策のパートナーとして連携するインド、つい3週間前に岸田首相を国賓待遇でもてなした同盟国日本を引き合いに出したのはまずかった。
急速な人口減少に歯止めがかからない日本は、国立社会保障・人口問題研究所が公表した日本の将来推計人口を基にした民間有識者グループ(人口戦略会議)の分析によると、2050年までに国全体の4割にあたる744の自治体で子どもを産む20代から30代の女性が半減し、「最終的に消滅する可能性がある」という。経済界や労働界、学識者らで構成する令和国民会議(令和臨調)は約1年前、もはや少子化対策だけでは急激な人口減少を食い止められないとして、日本社会をますますオープンにし、外国出身者を含め、世界の多様な地域から集まった人々が力を合わせる環境整備が必要との考えを打ち出した。
政府は昨年、国内の労働力不足を補うための対策として、外国人労働者の在留資格である特定技能制度を一部緩和する方針を閣議決定した。同制度には、一定の技能が必要な特定技能1号と、熟練技能が求められる特定技能2号があり、2号については事実上、無期限の在留や家族の呼び寄せが可能となるが、1号に比べてその数は圧倒的に少ない。この特定技能制度の見直しは現行の外国人技能実習制度の廃止とセットで議論が進んでおり、政府は「移民政策とは異なる」とのスタンスをとっているが、海外から幅広く人材を受け入れ、家族を呼び寄せ、条件を満たせば永住できるというのは移民政策としての大きな転換であるのは間違いない。
美浜町三尾のアメリカ村にみられるように、日本は明治以降、海外へ人を送り出す国だったが、1980年代になって、卒業後も高度外国人人材として定住できる留学生支援等で外国人を受け入れる側の国に転換した。就労目的外の入国が増え、日本人の人口減少が深刻化するにつれ、2010年代以降は労働力として外国人を受け入れようとの機運が徐々に広がり始めた。この泥縄式ともいえる現実をみれば、バイデン氏の発言もまったくのでたらめと否定できない。
国際社会では国家間の貧富の格差による難民、テロや戦争による難民が急増し、その受け入れをめぐる移民政策が各国で大きな政治課題となっている。東京や大阪の都市部よりも、地方の方が外国人の増加率が高い日本。今後、この21世紀の移民を受け入れる「第二の開国」により、安定した経済と社会活動を維持することができるのか。国際社会と和歌山、日高地方の移民の歴史、外国人の受け入れの現状から、日本の将来を考える。