恋愛小説集で、この中に「You look good to me」という短編がある。 ジャズ・ピアニスト、オスカー・ピーターソンの「You look good to me」(邦訳・君はすてきだね)を聴いているとき、作者の頭の中に物語が浮かんできて出来た小説だという。物語を思い浮かばせる曲とはどんな音楽なんだろう。そう思い調べて音楽を聴いてみた。ピアノが優しくイントロを奏でる。ドラムがブラシスティックをスネアドラムに掻きまぜ雰囲気を盛り上げる。ウッド・ベースが主旋律を歌い、ベースとピアノが互いの言葉を交わして音楽で語り合う。最後まで聴くとこころが優しくなっていく。これなら小説が生まれるだろうなと思った。主人公のオスカー(ネットでのハンドルネーム)は、コンピューターゲームのチャットルームでアヒルの子という女の子と出会う。彼女はチャットの際には必ず「自分は醜い」と呟いた。オスカーはきれいな女の子は好きではないと返信した。本文より。

 ―じゃあ、藤原紀香は?

 ―ぼくにはグラマーすぎるし、足がきれいすぎる。外人体型は苦手なんだ。

 ―松嶋菜々子は?

 ―肌が白くて、なめらかすぎだ。イメージだって上品すぎる。ぼくはお嬢様とつきあったことないもの。―

 二人は実際にデートをすることになった。だが、そのデートは奇妙なデートであった。彼女は並んで歩かないし、レストランで食事をするときにも顔を上げず俯いたまま食事をしていた。彼女は「自分は醜い」といつも言った。彼に自分の顔を見せないように振舞っていたのだ。最後は、こう締めくくられる。

 ―彼女は本当は美しいんだろうか? それとも醜いんだろうか?

 でも、そんなこと実際はどうでもいいんだよね。こたえがどちらでも、ぼくの気もちは変わらないんだから。―

 You Look good to me(君はすてきだね)と。(秀)