日高川交流センターで開かれた由良町出身のバイオリニスト、小髙根眞理子さんのリサイタルを取材した。開演前や休憩に読む本を持参していたが、開くことはなかった。プログラムの解説が面白くずっと読んでいたのだ◆あいさつで「クラシック音楽に少しでも興味を持っていただければ」との小髙根さんの思いが述べられる。1部のベートーヴェンはドイツ、グリーグはノルウェー、2部のパガニーニはイタリア、クライスラーはオーストリア、サラサーテはスペイン。さらにアンコールはスイスのラフ、ポーランドのザジツキと、この日だけで観客は7カ国の音楽に触れた◆曲目解説は小髙根さんの娘でバイオリニストの小髙根ふみさん。バイオリンソナタについて「バイオリンとピアノは対等な関係にあり、音楽で会話をするような感じ」とあるのにまず心ひかれた。演奏曲のベートーヴェン「ソナタ第1番ニ長調」は作曲時期が難聴を感じ始めた時期と重なると説明され、「「決然と和音を打ち出す第1楽章冒頭は、その苦しみに打ち勝とうとする気持ちの表れだろうか」の記述に感銘。グリーグの「ソナタ第3番ハ短調」は第2楽章が「雪解け水が滝となってフィヨルドに流れ落ちている様子そのもの」と表現され、「この解説を全部頭に入れてから鑑賞したい」との思いにかられて開演まで何度も読んだ。そうして聴いた小髙根さんとピアノの長尾洋史さんの「音楽での会話」は素晴らしかった。ある時は優しく、ある時は力強く、流れるメロディーと和音の響きが心弾ませる◆どの分野でもそうだが、対象を深く知ることで味わいはさらに深まる。ふと入った森の中に、色とりどりの花々が豊かに咲いていたことに気づかせてもらったような公演だった。(里)