3月のテーマは広い意味での「卒業」。1970年前後の大学紛争の時代を当時の高校生の視点で描いた4部作の一つをご紹介します。

 「さよなら怪傑黒頭巾」(庄司薫著、中公文庫)

 芥川賞を受賞した「赤頭巾ちゃん気をつけて」に続く「白鳥の歌なんか聞こえない」「さよなら怪傑黒頭巾」「僕の大好きな青髭」の4部作。紛争のただ中にあった学生たちより少し下の世代、紛争で東大の入試がなくなった年の受験生・薫くんが主人公。本書では、一つの闘争の季節が終わり、夢破れて「変節」する男たちの悲哀が描かれます。

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 「いまでも夢に見ることがあるんだそうだ」と彼はそれから目を閉じてゆっくりと言った。「どことも知れぬ淋しいところを黒頭巾黒装束の彼が颯爽と行くんだそうだよ。ところが、至るところに味方が倒れていて、彼が抱き起こすとみんな無念の涙をたたえて死んでいってしまう。そしてそのたびに彼は、残念無念って夢の中で泣いてどなるんだってさ」(略)

 「その広野には男がいっぱい横たわっていて、抱き起こして顔をのぞいてみると、それがみんな友達や知り合いなんだ。そして、どういうわけか、みんなどこかに涙のあとを残していたりする。しかもそれがどこまでもどこまでも続いているんだ」