お笑いが好きでよく見る。今は各お笑い事務所がオンラインでさまざまなコンテンツを発信しているのでありがたい。そんな中たまたま見た動画で、20~30代の若手芸人が出るような舞台に、どう見てもおばあちゃんの女性がネタを披露しているのを見た。

 調べてみると、その人は芸歴5年目、正真正銘の若手芸人で、芸名もずばり「おばあちゃん」。今月77歳の喜寿を迎えたという。ネタは後期高齢者の立場を存分に生かし、日々のできごとを自虐調に綴り、要所でシルバー川柳を読み上げ笑いを起こす。星の数ほどいる若手芸人がしのぎを削る吉本の劇場オーディションを通過し、レギュラーメンバーとして舞台に立っているから驚きだ。

 さらに調べてみると、おばあちゃんは70歳を超えて吉本のお笑い養成所に入学した。終戦直後に生まれ、長年会社勤めをしていたが、小さいころからお笑いが好きで「いつかやってみたい」という気持ちを持ち続けていたという。ここまでに至る人生も波瀾万丈で、30代でがんと闘病、これがきっかけで人生を悔いなく生きようと40代で大学生となり、学会で研究発表もした。喋っている様子を見ても、とても自然体でどことなく品がある。劇場ではおばあちゃんより40以上も年下の若手芸人に囲まれ、ゲームコーナーでボケをかまし、お客さんを楽しませている。

 おばあちゃんは案の定多くのメディアで紹介されていて、ある記事では「やりたいことがあったらやる。年だからって逃げない。人や時代のせいにしない」とメッセージを残していた。私はおばあちゃんよりずいぶん年下だがぐさりと刺さった。物事を始めるにはいくつからでも遅くはない。(鞘)