2月のテーマは「冬の味覚」。カクテル小説の名手オキ・シローの短編集から、冬のバーを舞台にした物語をご紹介します。

 「雪の日のホワイト・レディ」(オキ・シロー著、幻冬舎文庫「ギムレットの海」所収)

 酒をテーマにした著書を発表し続ける著者の代表的なシリーズ。雪景色に似つかわしい白いカクテルの登場する1編、続いて体の温まるカクテルが登場する1編をご紹介。

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 若いバーテンダーが、白く淡くもやったカクテル・グラスを、カウンターの上を滑らせて男の前に置く。(略)脚の長い華奢なカクテル・グラスには、淡雪のようにはかなげな白い酒が、ひっそりと満たされているだけ。(略)六年前のあの日も、ちょうど今夜のように激しく雪が降っていた。知り合ってまだ日の浅かった妻を、初めてこのバーに連れてきた夜のことだ。(「雪の日のホワイト・レディ」)

 トム・アンド・ジェリーは日本でいうと卵酒。(略)女は口をすぼめ、湯気の立つトム・アンド・ジェリーをゆっくりと、少しだけ口に流し込んだ。ラムとブランデーとナツメッグが混ざり合った甘い香りと一緒に、熱い酒がとろりと口にひろがる。(略)寒風に冷えきった体の芯に、ぽっと明かりがともったような気分だった。(「Ⅹマスのトム・アンド・ジェリー」)