戦後間もない日本を明るくしてくれた「青い山脈」や和歌山県にゆかりの深い童謡「まりと殿様」等の作詞者、西条八十の童謡「お山の大将」について、書家の弓場龍溪さんが本紙連載コラム「童謡をかく」で取り上げていた◆「お山の大将俺ひとり/あとから来るものつきおとせ/ころげて落ちてまたのぼる/あかい夕日の丘の上」…作者の八十自身はこの歌詞について「人類の地上に於ける空しき闘争の相(すがた)」を象徴すると述べたという。空しき闘争の最たるもの、国家間の武力抗争が21世紀に入ってから初めて起こったのが2年前の2月24日だった◆その日を境に、美しかったウクライナの街並みは信じられない速度で破壊され、その様子は世界中で連日大きく報道された。しかし未だ世界の誰にも、それを止めることはできていない◆子供の時、ウクライナ人作家の小説「隊長ブーリバ」、童話「ネズナイカ」を愛読した。物語を通じて親しんだ国が理不尽にもひどい攻撃を受けていると思うと、抑え難い怒りを覚えた◆事はウクライナだけの問題ではない。この暴挙のために世界の民主主義がいま、重要な危機に瀕している。「武力によって損なわれることのない社会秩序」が否定される、恐ろしい闘争の時代への逆戻り。それを阻止すべき正念場がずっと続いているはずだが、そう長い期間にわたり緊張感を維持するのは困難だ。報道される頻度も明らかに少なくなっている◆しかし、知ること、関心を寄せ続けること、機会を捉えて発信すること。個人にできるささやかなことを、続けなければならない。あるいは誰かのその行動が、潮目を変える一石になり得るかもしれない。行為自体が些細でも、そこに力が加わると何かが動くことがある。歌が心を動かすように。(里)