当社の津村尚志代表取締役会長が先月29日、82歳で他界した。普段、記者の仕事をしていて接する機会はあまり多くはなかったが、一時期、毎週欠かさず原稿を受け取っていたことがあった。読者プレゼント企画の「漢字クロスワード」だ◆以前、筆者の担当する文芸欄に掲載されていた2字以上の熟語で構成するクロスワードパズル。この問題を毎回考えていたのが、当時社長職にあった津村会長だった。解答となる3字熟語には、その時々の季節の風物や時事問題が織り込まれる。よく辞書のページを繰りながら考え込んでおられた。締め切りが来て催促したことはなく、多忙な時期を前にすると何週間も先の分まで原稿が用意されていた。時には筆者の知らない言葉も登場。小正月行事「どんど焼き」のことを「左義長(さぎちょう)」と呼ぶことなど、このパズルを担当したおかげで知った◆文化や歴史、特に日高地方の古代史に関心が高く、中でも日高川町鐘巻の名刹・道成寺の創建にかかわる宮子姫伝説、御坊市の岩内1号墳への埋葬説がある悲劇の皇子有間皇子について、全国的なアピールへのプランを熱を込めて語られるのを何度か耳にした。筆者は歴史好きだが、積極的に関心を持っているのは戦国武将や幕末の志士であって、平安以前の古代史については中学生同然の知識しかなく、髪長姫として知られる宮子姫が聖武天皇の生母とされることなどを知ったのは入社してからだった◆光を当てることで、存在が明らかになる。郷土に眠る宝の存在を周知して輝かせるのは地方紙の重要な仕事の一つ。地域には人という宝があり、歴史という宝もある。情熱を込めてその価値を伝えていくことの意義深さを、会長に示して頂いたように思う。(里)