知り合いに頼まれ断れず、昨年から県のがん対策推進計画を策定するメンバーとなり、来年度からの第4次計画を考える場の末席を汚させていただいている。和歌山県の課題の一つとして、中高生らに対するがん教育の普及がある。

 生涯に2人に1人がかかり、4人に1人死亡するといわれるがんも、いまは定期的な検診による早期の発見、治療で治る確率が高い時代。正しい知識と健康的な生活習慣を身につけることで、ある程度は予防もできる。

 がん教育はその予防につながる知識、情報を伝える場として、専門家である医師やがん患者、経験者が講師となり、学校に出向いて生徒たちに直接話をする取り組み。先日、同じ会議の医師から依頼を受け、白浜町の富田中学校で行われた授業を取材した。

 講師を務めたその医師は、同校出身で現在は国立がん研究センター中央病院(東京)の副院長を務めている楠本昌彦氏。がんの話だけでなく、後輩たちに愛情を持って、勉強することの大切さを話されていたのが印象的だった。

 楠本氏は中学時代、教室で先生に「君たちはなぜ勉強しなければならないか」と問われた。全員が答えに窮していると、先生は「勉強は生きるためにするんだよ」と教えてくれたが、そのときは意味が分からなかった。

 自分が医師となって患者に向き合うなか、遺伝子の異常によって起きるがんは、「遺伝する病気」だと思っている人が多いことに驚いた。正しい知識を得ればそんな誤認が減り、予防のための情報も得られる。これこそが生きるための勉強だと気づいたという。

 ネットに怪しいフェイク情報があふれるいま、世の大人たちは若い中高生に生きるための知識、知恵を与えねばならない。(静)