若き天才棋士、藤井聡太九段の活躍により、若い人の間にも将棋への関心が高まっていますが、若き棋士たちの戦いをビビッドに描いた長編漫画のクライマックスが近づいています。最新、17巻をご紹介します。

 物語

 《16巻まで》 幼くして事故で家族を亡くし、天涯孤独となった桐山零。プロ棋士に引き取られるがその家の家族となじめず、将棋が上手くなる以外に自分の居場所はないとひたすら打ち込む。中学生にしてプロとなるが、技術の向上とは裏腹に孤独感は増すばかり。そんな中、偶然出会った東京下町・月島の和菓子店一家に心を救われる。実はその家族も苦しい事情を秘めていたのだが、零との出会いが彼女達をも救っていく。

 《17巻》 16巻後半に続く獅子王戦、終生のライバルにして「心友」の二海堂晴信との対局。二海堂は、ひなたという婚約者=理解者を得て幸せになった零に対し、棋士としての向上心への危惧を抱いている。上へ行くために必要な闘争心や一種の飢餓感のようなものをなくしてしまったのでは、と。相手の状態がどうだろうと、持てる力をすべて発揮して迎え撃つべく盤面に向かう二海堂だが、それに相対する零が次々に繰り出してくる、尋常ではない戦法と来たら…。

 ひなたという生涯の伴侶を得た零。その私生活での充実が将棋にはどう影響するか。その実際がこの対局で明らかになります。

 著者はもともと将棋に関しては何の知識もなく、この作品に取り組んだのは、最初の長編である「ハチミツとクローバー」の成功を受けて担当編集者が「今度は将棋はどう」と提案したことが始まりだとか。

 「居飛車」「振り飛車」「矢倉」「穴熊」などの専門用語が飛び交い、1手1手の意味も詳しく紹介され、ルールもろくに知らない人には何がなんだか分からない世界のようですが、1局ごとの「勝負」の様相を目に見えるように表現する、その独自の手法が実に面白い。

 16巻から今巻の戦いでは、私の一番好きなキャラクターである二海堂が中心となり、非常に重要な位置づけのエピソードとなっています。この二海堂というキャラには、モデルとなった棋士がいます。羽生善治と同世代の村山聖(さとし)。病を抱えながら最小限の人にしか告げず、29歳で他界しました。以前に本欄でも紹介した「聖の青春」(大崎春生著)と合わせて本書を読むのがお勧めです。著者のあとがきによるといよいよラストスパートも近い。100巻超えの長編も珍しくない少年漫画に比べると、17巻というボリュームは今から入っていくにも手頃ではないでしょうか(「ONE PIECE」でいうとまだチョッパーが仲間に入ったぐらいです)。将棋ファンにもそうでない人にも、ぜひ読んでいただきたい1作です。(里)