9月のテーマは「敬老月間」とし、物語の中で活躍する高齢のキャラクター達をご紹介します。

 「バートラム・ホテルにて」(アガサ・クリスティー著、乾信一郎訳、ハヤカワミステリ文庫)

 エルキュール・ポワロと並んで有名な、クリスティーが生み出した名探偵ミス・マープル。田舎の村に住む独身の老婦人。長い人生で出会ってきた人達を参考にしながら、独自の推理で鋭く真相を見抜きます。

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 密会なのだろうか? そう、たぶん密会だろう。(略)好奇心、またはミス・マープル自身は、他人の事に「興味を持つ」ということばのほうが好きなのだが、これはまさに彼女の特徴の一つなのである。わざと手袋をテーブルの上においたままにして、彼女は立ちあがると支払係のデスクへ向けて、セジウィック夫人のテーブルのわきを通るような道順をとって行った。勘定を払ってから、彼女は手袋がないことに「気づいて」その手袋を取りに引き返した。そのもどり道で、彼女はなんとあいにくなことに、ハンドバッグを取り落としてしまった。(略)ミス・マープルは、下りのエレベーターを待つ間に、さきほど耳にはさんだきれぎれのことばを暗誦していた。