スポーツは苦手だがスポーツ漫画は大好きで、バスケ漫画の名作「スラムダンク」の原作者が監督を務めた映画「THE FIRST SLAM DUNK」もいちはやく劇場で観た。中国での人気のすごさが度々報道され、単純に「やはり日本のアニメはすごい」と思っていたところ、芥川賞受賞作を読むため購入した「文藝春秋」9月号にその背景を詳しく解説した記事が掲載。興味深く読んだ◆「中国の30~40代の男性で『スラムダンク』を知らない人はいないと自信を持って断言できる」と記事の筆者楊駿驍氏は述べる。この世代は80年代生まれで激変の時期を生きてきた。中国では文化大革命後の1978年に改革解放政策が提起され、市場化経済へ移行を始めた。文革で文化的には空白ができており、そこへ海外から音楽、映画、アニメ等が大量に輸入。子ども向けの教訓的なアニメぐらいしかなかったところへ、青春を熱く描いた「スラムダンク」がやってきた◆この記事で知って驚いたが、中国の中学・高校は日本のような部活はほとんどないという。一つの競技で仲間同士が目的に向かって共に戦う姿、友情や恋が描かれた「青春」は中国の若者の生活にはなかったものだった◆2008年の芥川賞受賞作、楊逸著「時が滲む朝」は1989年の天安門事件が描かれた作品である。この中で、尾崎豊の「I Lоve Yоu」が挫折した民主化運動の象徴として効果的に使われていたのが非常に印象的だった◆他国の事情を知ることに加え、国を超えて同じ歌や映画に心を熱くする経験は、利害関係とは別次元の強いつながりになり得る。先行き不透明なこの時代、それは重要さを増していくかもしれない。(里)