8月のテーマは、今月7日で生誕100年を迎えた「司馬遼太郎」。今回は、織部焼で知られる戦国武将をテーマとした短編です。

 「割って、城を」(司馬遼太郎著、講談社文庫「軍師二人」所収)

 焼き物に詳しくない人でも耳にすることがあると思われる深い色の緑釉が特徴の「織部焼」。地名ではなく豊臣秀吉、徳川秀忠に茶頭として仕えた武将古田織部の名がもとになっています。

  * * *

 糸底をかえした。
 陽に、かざした。
 やがてしずかに織部正の顔に血の色がのぼってきた。
「真正の宋胡鉢じゃな」
(略)
 織部正は、軒蓑をふたたび自分の両掌のなかへもどし、ふちに二本の親指をかけた。
(なにを、するつもりか)
 善十は見た。
 織部正は、微笑している。が、異常な力が茶碗をもつ指にかかっていることは、その肩の様子でわかる。
(あっ)
 ぴしっ、と、掌の中で茶碗が二つに割れた。(略)
「殿、何をなされるのじゃ」
「割る」
 織部正は楽しそうであった。「割って、わしの好きなように、自在に黄金を流し入れてつなぐ。継ぎ目の景色は、いちだんとよいものだ」