侵攻1年を受け、今月のテーマは「ウクライナ」。作家ゴーゴリの作品をご紹介します。

 「隊長ブリバ」(ニコライ・ゴーゴリ著、原久一郎訳、日本ブック・クラブ「世界文学全集 9」所収)
 ウクライナコサックの連隊長ブリバと彼の2人の息子達の戦いを描いています。ウクライナの民族的解放のための自己犠牲的な戦いが鮮明に描き出され、その合い間にウクライナの美しい自然描写もちりばめられます。ザパロージエ、ドニエプル川等、ニュースでよく報じられる地名も登場します。

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「ああ、老いたか、わしも老いたか!」こう悲壮な声で言って、頑固な老コサックは男泣きに泣き出した。が、この場合老齢が悪いのではなかった。彼の手や首にぶら下がっている人間は三十人を下らなかったのである。(略)

 彼らはタラス・ブリバを吊るし上げて、その裸木の根もとに薪の山を積み始めた。(略)

「岸へ! おいみんな! その右手にある麓への小径を伝って早く下りろ! 追撃されないように船はみんな持っていけっ!」ちょうどこの時、一陣の風が反対の方角から吹いてきた。で、これらの言葉はことごとくコサックたちの耳へ入った。(略)

 鉄砲の弾丸が上から彼らに向かって浴びせかけられたが、それは彼らに当たらなかった。老隊長の嬉しげな両眼は燃え立った。