30年以上前、東大阪で電報配達のアルバイトをしていたとき、何度か祝電の束をお届けした。当時はまだご健在だったが、毎回、出てこられたのはお手伝いさんらしき女性で、一度もお目にかかることはなかった。

 というのは、国民的作家の司馬遼太郎さん。近鉄河内小阪駅近くの静かな住宅街に家があり、小阪の隣の駅前にあったバイト先では「またシバリョーか」「ほな俺行ってくるわ」と、葬儀場や結婚式場と並ぶ常連の配達先だった。

 今年は司馬さんの生誕から100年。没後、その自宅の隣に建てられた安藤忠雄氏設計の記念館を運営する司馬遼太郎記念財団が先日、ファンが選ぶ好きな司馬作品のランキングを発表した。

 1位は近代国家に生まれ変わる激動の明治の日本を、松山生まれの軍人の秋山好古・真之兄弟と、幼なじみの俳人正岡子規の目を通して壮大なスケールで描く「坂の上の雲」。これは当然の結果か。

 2位は福山雅治主演で大河ドラマになった「竜馬がゆく」、3位は土方歳三を主人公に、幕末の動乱期を駆け抜けた新選組を描く「燃えよ剣」。どれもまるでその場にいるような圧倒的な臨場感で、ページを繰るのももどかしいほど面白い。

 司馬さんと陸軍の戦車連隊で同期だった元和高専名誉教授の故幡川三夫さんによると、司馬さんは当時、俳句に凝っていて、ある日、なぜ俳句ばかり詠むのかと聞くと、「長い文章を書くのが嫌いやねん」といっていたという。幡川さんも笑っておられたが、のちの大長編の数々をみると見事なフリとボケである。

 ランキング上位作品は、世の中が不穏ないまこそ読みたい名作ばかり。国家とは、国民とは、戦争とは何か…。まだ読んでいない方はぜひ。(静)