11月は1回だけだったので、引き続いて12月も「和歌山県」をテーマとします。

 「歴史の中の和歌浦」(寺西貞弘著、塙書房)

 歴史をひもとく学術書ですが、意外に読みやすい。「和歌浦」という場所が古代から近世に至るまで、知識人、特に歌人にとって如何に重要なポジションにあり、憧れの地であったかがよくわかります。古代には聖武天皇、称徳天皇、桓武天皇の3人が和歌浦に行幸。近世には徳川綱吉の側用人、柳沢吉保が和歌浦を模した庭園「六義園」をつくっています。

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 思えば、平城京は四方を山に囲まれており、天皇や宮廷貴族たちは海を見ることのない生活を送っているのである。それゆえに、彼等の海の見える風景へのあこがれは、想像以上のものであっただろう。(略)赤人は、長歌で玉津島を中心とする和歌浦の景観を絶賛している。そして、続けて次のような反歌二首を詠じている。

「沖つ島 荒磯の玉藻 潮干満ちて 隠ろひゆかば 思ほえむかも」「若の浦に 潮満ち来れば 潟を無み 芦辺をさして 鶴鳴き渡る」

(略)赤人は、和歌浦の干潮時と満潮時の様子に感動して、そのさまを対比させて詠じているのである。このことから、赤人は和歌浦の潮の干満に一日中目を奪われていたことがわかるのである。